2012年5月25日金曜日

演出家とパースと仕事のスピード

アニメは色んな人が絵を描いていて上手な人も下手な人も上手でも作品と絵柄が合わない人とか色んな人が混じってつくるわけですが、とりわけ難題は下手な人が揃ってしまった場合です。アニメーターといえば絵がうまくて当たり前…かというとそんなことは全然なくて新人さんは大概下手ですし、ベテランでも下手な人はいる訳です。で、力の弱い制作会社だとそういう人しか集められなくて演出家や作画監督が途方に暮れるということは往々にしてあります。さて、しかし上手い絵下手な絵とはなんなのでしょう。絵の描けない演出家を一番不安にさせるのは絵のクオリテイが高さが売りの作品で絵のうまい人がいない状態では無いかと思います。現場の状況がどうあれ演出家は作品の最終的な仕上がりに責任を持つ役職の一つですので、それが絵のクオリティーが期待できないとなれば不安にかられる人は多いでしょう。特に最近はパッケージの売りメインの商売が多いので絵のクオリティーが上がらないのはマイナス要素です。お話がいくら面白くても絵が綺麗でないとコレクションの欲求をくすぐることは確かに難しいかもしれません。とはいえ、絵の描けない演出家には絵の精度を上げていくということに関しては手を出せない、仮に絵の描ける人であっても物量的に余程時間がないと厳しいです。であれば絵コンテを描いてあとはアニメーターに任せればいいのかというとそうもいかない。演出家と作画監督を兼任している人も中にはいますがスケジュール的にかなり余裕がないと物量をこなせません。そこで演出の部分は分けて演出家が担当しているわけです。絵が描けなくても絵が判ればいい、演出家に向けてこういう言葉を発した人がいますが、しかし絵が描けないのに絵が判る状態というのは何か禅問答の用にも聞こえます。実際のところ演出家はどうやって絵と向き合えばいいのか。演出家がアニメで仕事をする上で必要充分な絵とは端的に言うと「何が描いてあるのか判る」の一点につきると思います。それはどういうことかというと、例えば画面に映っているのが誰かの判別がつくかどうか。花子さんというキャラクターを描いたのに陽子さんというキャラクターに見えてはいけない、そういうことです。花子さんが木の横に立っているという絵の場合、その人が地面に立っているのが判る、木のそばにいるのが判る、そして花子さんであるのが判る、その三つが必要充分条件です。これが判るかどうか判断するというのが演出家の仕事です。条件を満たしていない場合原画マンか作画監督に修正をお願いすることになります。
こう書くと単純なことに思えますが、なかなかこれが難しい。例えば絵の中で人が地面に立っているように見えない、と演出家が感じた場合どう対処するでしょう。基本的には大筋の修正の方法を演出家が提示する必要があります。地面に立っているように見えないという場合は、遠近法に則っていない故にということが多いので何が違っているのかを発見するという作業になります。ほとんどの場合絵に描かれている物どうしのアイレベルが違うだけなので、どこにアイレベルを置くか決めてそれによって決まる地平線上に消失点を統一することで解消できるでしょう。とはいえ、色々な物が映っていて言葉でそれを説明するのが大変な場合「パース合わせてください、アイレベルこの辺でよろしく!』などと大雑把に指示して作画監督に任せてしまうこともしばしばです…(作画監督さんは大変です)さて、話が戻るようですが、ここで重要なのは、地面に立っているように見えるということが作品にとってどれほど必要か?ということです。地面に立っている人が地面に立っているように見えるなんて当たり前じゃないか!!!とみなさんおっしゃるかもしれませんが、同じ地面に立って見えるということでも『ちびまる子ちゃん』と『攻殻機動隊』では絵のつくりが全く違いますしその重要度も全く違うのです。といっても演出家が「攻殻機動隊」の様なパースを管理することはかなり難しいです。「攻殻機動隊」の場合きっちりとしたパースが作品の世界観を作り物語への移入を補助していますので、ああいう作品は作画監督の重要度がとても上がります。では、もっと簡単な絵で「攻殻機動隊」の話を表現することが可能かといえば、可能でしょう。絵をどんどんシンプルにしていった時それでも捨てられない絵の要素、それが無ければ物語が伝わらない何かが、物語にとってもっとも重要な事柄だと言えると思います。それが何なのか突き詰めていくのが演出家の仕事です。パースがどのレベルで重要なのか、パースよりキャラクターのかわいさが重要なのか、どうすればキャラクターがかわいく見えるのか、と実際上がってきた絵を前にすると演出家は色々考えます。
実務で新人の演出家が弱小プロダクションでレベルの低いアニメーターたちの上げてきたレイアウトを前にして作画監督も頼りにならない四面楚歌の状況で途方に暮れた時、まず自分の担当している仕事で重要な要素は何なのか解題してシンプルに一つ一つの要素を取り出してみることです。要素の重要度を見極めて並べ直す、ここから始めるしかないです。うまく要素が取り出せると、上手くない絵でも伝わるものをつくることができると思います。『ちびまる子ちゃん」のようなシンプルな絵で「けいおん」をつくることを想像してみましょう。できなくもないとおもいませんか?「ちびまる子ちゃん」のアニメの絵はとても上手いので誤解なきように。絵をシンプルに解題することは演出家にとってとても大事だという話です。こうやって考えることで仕事のスピードもぐっと早くなっていくと思います。

1 件のコメント:

gootooh さんのコメント...

めちゃめちゃ面白いです(>_<)
何となくパースの狂いなんかは作画監督さんのお仕事かと思ってましたが、演出家さんもパースの理解は重要なんですね。
ちょうどパースの勉強を復習し始めた所だったのでヤル気大幅アップです!!